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コラム

【2026年6月号】世界を動かしているのは誰か ── トランプ、AI、そして「宇宙合戦」の時代

お知らせコラム

世界を動かしているのは誰か ── トランプ、AI、そして「宇宙合戦」の時代

世界を動かす主役は、相変わらずトランプ米大統領です。このコラムも毎回、その名から始まります。けれど今年は事情が少し違う。11月の中間選挙を控え、目に見える成果を焦るトランプ氏。その焦りを、イランも中国も冷静に読み、逆手に取って交渉を進めている──気がつけば今年も半分、世界はそんな巨大な駆け引きの渦中にあります。その激変の波は、ついに私たちの暮らしの足元にまで及んできました。

私は仕事柄、世界の政治と経済を毎日にらんでいますが、突き詰めれば必ず一点に辿り着きます。「世界のマネーは、これからどこへ向かうのか」。企業が経営戦略をまず環境分析から始めるように、個人のマネー戦略も「いま世界はどうなっているか」を知ることから始まります。このコラムが、皆さまの羅針盤になれたなら幸いです。

 

 【動かす男たち ── 予測不能なトランプと、消えぬ相互不信の習近平】

驚いたのは、現職の大統領でありながら、トランプ氏が米国株を13月だけで3,700件、前年同期の10倍も売買していたという報道です。半導体やAIを買い増し、政権に近い企業の株も取引し、利益誘導の懸念が広がる。ブルームバーグは一族企業の関与まで指摘しました。相場を動かし、関税で各国を揺さぶる姿には、世界中の富を我がものにし、すべてを自由に操りたいという思惑がにじみます。

外交でも、中間選挙までに「手柄」が欲しいトランプ氏の足元を見透かすように各国が動く。イランは核問題で強気を崩さず、戦闘終結会談は「結論先送り」、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は3カ月に及びます。NATOも揺さぶり、「同盟国を守らないかもしれない」の一言が集団防衛の生命線(第5条)を形骸化させかねない。欧州は米軍5,000人削減に直面し、自前の防衛を模索し始めました。

二人目は習近平氏。米中首脳会談で台湾問題の成果を引き出したとされますが、根っこの相互不信は消えていません。アジア安全保障会議(シャングリラ会合)で米国のヘグセス国防長官が中国の軍備増強を警戒する一方、中国は国防相の出席を見送り、対話を避けました。清華大の李稲葵教授は「長期的な対等協力」と見るが、早大の青山瑠妙教授は「中国版G2論」の再構築を狙うと警戒する。既存の大国と台頭する大国は衝突しやすい──「トゥキディデスの罠」そのままに、覇権争いはもはや地上だけにとどまりません。

もう一つの主役はロシアです。日経新聞の秋田浩之氏が「衰えるロシア、なお凶暴に」と書いたように、経済も軍事も弱るからこそ、ドローンやサイバー攻撃、暗殺工作という「弱者の戦い方」で欧州を揺さぶる。実に軍事攻撃の7割超がこの非対称攻撃です。衰えた獣ほど、追い詰められると危険なのです。

 

【国家の新たな盾 ── AIが支配する防衛と金融の最前線】

こうした衝突の裏側で、長い目で見れば国家元首より大きな力を持つかもしれないのが、テック起業家たちです。彼らのAIは、いまや国家の中枢やインフラの深奥にまで入り込んでいます。象徴的なのが、アンソロピックのサイバー特化型AI「ミュトス」と、オープンAIの「GPT-5.5-サイバー」が、相次いで日本のメガバンクや政府に提供されると発表されたこと。金融インフラが攻撃で止まれば、国家は瞬時に機能停止する。人の目では追えない高度なサイバーテロに対し、最先端AIを日米同盟とともに「国家の盾」とする時代が到来しました。

小泉進次郎防衛相も、年内改定の安保3文書に自衛隊のAI活用を明記すると表明。ミサイルが飛ぶはるか前に、サイバー空間での主権争いは始まっています。AIはもはや、国家安全保障の主戦場です。投資家ベン・ホロウィッツ氏いわく「SaaSの死は、巨大IPO投資の準備だ」。ソフトの時代が終わり、AIが世界を作り替える時代が始まった。その燃料を争い、エヌビディアは57月期に95%増収の見通し。データセンターの計算資源こそ、新しい石油なのです。

 

【狂気と熱狂 ── 泥沼の訴訟劇、PSR93倍、アナリストの敗北】

新しい石油が本物だからこそ、世界中のお金が殺到する。その巨大なマネーは、ときに巨人たちを骨肉の争いへ駆り立てます。象徴が、マスク氏とオープンAIのアルトマンCEOの法廷闘争です。マスク氏は「オープンAIが営利化で慈善の利益を盗んだ」と訴えましたが、5月、陪審は2時間足らずで全員一致のマスク氏敗訴。ただし理由は中身ではなく「提訴が遅すぎた」という時効で、マスク氏は控訴を表明しています。重荷の外れたオープンAIには、マイクロソフトやエヌビディア、最大500億ドルを投じるアマゾンが群がり、企業価値は7,000億ドル(約100兆円)超、年内のIPOが噂されます。

一方、市場のインデックスは狂気を孕み始めています。来月IPOを申請するスペースXの予想PSR(株価売上高倍率)は93倍。市場平均の数倍が常識ですから、桁違いです。期待という名の「夢」が、現在の冷徹な算術を凌駕している。AI半導体株の急騰で一握りの巨大テックだけがS&P5003分の1超を占め、マイクロンやインテルの復活も含め、1990年代のドットコムバブルを思わせます。誰もが「今回は違う」と思いつつ、結局は高値を追うのが投資家の習性なのでしょう。

その狂乱を体現するのがフラッシュメモリーのサンディスク。AIデータセンターの需要爆発を背景に、株価は1年で「4,000%超」も跳ね上がり、バークレイズは目標株価を1,200ドルから2,300ドルへ引き上げました。ただ業績は本物で、直近の売上は前期比でほぼ倍増、利益も予想を6割上回る。問題は、メモリーが歴史的に好不況の波の激しい循環産業だということ。いまは絶好調の「山」の頂点にいますが、これが実体か泡かは、まだ誰にも断じきれません。

歴史を振り返れば、投資家が託したお金と期待が企業に挑戦の余力を与え、やがて泡に見えたものを実体へ変えていく側面はあります。しかし、すべての夢が叶うわけではない。だからこそ、目先の数字だけに目を奪われ、単一の対象に無防備に飛び込むのは危険です。熱狂の渦中にあるからこそ、冷静な視点を持つことが、かつてないほど大切になっています。

 

【個人の盾 ── 「多角化」という生き残りの鉄則と「円脱却」】

では、私たち個人はどう足元を守るのか。世界は見えない糸でひとつながりです。中東危機でホルムズ海峡の封鎖懸念から原油高が長期化し、石油化学の原料ナフサはアジアで世界一に高騰。日本は調達先を中東から米国へ大転換し、米国からの輸入量は前年の209倍に跳ね上がりました。先日、ある医師の方が「手袋を買いだめした」と話していました。一本の海峡の封鎖が、巡り巡って歯科医院の手袋の値段を押し上げる。一国に頼らない「調達の多角化」は、国にも企業にも生き残りの鉄則です。

そして、この「多角化こそ生き残りの鉄則」は、そっくり個人の資産にも当てはまります。円は実質実効レートで「最弱通貨」トルコリラにすら見劣りする水準に沈み、財務省が11.7兆円という過去最大の為替介入を行っても、一時1ドル160円に再接近しました。住宅ローンの長期固定金利は大手5行平均で3.5%超、6月から初診料は190円上がります。物価高と通貨安が、私たちの購買力を削り続けている。資産のすべてを「円」という一つの通貨に依存させるのは、エネルギーを中東だけに頼るのと同じくらい無防備で危険です。世界に分散する人と、円預金だけの人の格差が、これほど残酷に開く時代もありません。

問われているのは投資の手法ではなく、マインドセットそのものです。国家が調達先を分散し、AIという盾で防衛を敷くように、個人もまた円への一極依存から脱却し、自らの盾を築かねばならない。激動の時代に、それはもはや選択ではなく、生き残るための必然なのです。

 

【宇宙合戦の果てに、私たちは何を見るのか】

人類の野望と資本主義が際限なき成長を求める先は、いまや月へ、そして宇宙へと広がっています。時価総額2兆ドルに迫るスペースXを率いるマスク氏が人類初の「1兆ドル長者」に近づく裏で、中国の有人宇宙船は香港出身の飛行士を初めて宇宙へ運び、NASA2032年の月面基地計画を発表、トヨタも月面車を開発中です。富とプライドを懸けて火花を散らす数字の裏には、いつも誰かの途方もない夢があり、投資家はその夢に賭けて文明を動かしてきました。

しかし、どれほど評価額が膨張し、覇権争いが宇宙空間へ拡大しようとも、決して忘れてはならない事実があります。それは、広大な漆黒の宇宙から我が家を振り返ったとき、そこには国境線など一切存在せず、ただ一つの小さな青い球が浮かんでいるだけだということです。

争うか、協力するか。同じ船に乗り合わせた者同士、答えは自ずと明らかでしょう。市場の熱狂や激変のスピードに呑まれて我を失うことなく、足元を盤石に固めながらも、視座は常に世界へ、そして宇宙の大きな流れへと向けていく。

次の一か月、どんな荒波が押し寄せようとも、共に考え、共に備え、この壮大な時代を歩んでいきましょう。

 

IFA(独立系金融アドバイザー) 園田 悠子

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